シャーロック・ホームズの物語は、映画だけでなく、ドラマ版でも人気がありますが、先日観たのは、ホームズの晩年をテーマにしたこの映画。
あのシャーロック・ホームズが引退するきっかけになった30年前の事件を、ホームズ自身がおぼろげな記憶をたどりながら、思い出していく構成になっています。
というのも、彼は年齢のせいもあってか、記憶力が低下しはじめていて、当時の記憶が曖昧になっているのです。物忘れに効くという特効薬をもとめに、はるばる日本にまで渡るほど。
その特効薬がある地がヒロシマです。
このストーリーは、第二次世界大戦後が舞台になっていますが、他のホームズ作品よりも現代に近いという点で、より感情移入しやすくなっているようでした。
ホームズの案内役は、真田広之さん演じる、ミスター梅崎。
彼に案内されて行った先で、ホームズはこんな情景を目にします。
ホームズの目に、このシーンはとても強烈な印象を残します。
そして、焼け野原となったその地で、探していた薬草を見つけることができました。
薬草が効いたかどうかは微妙なところですが、ホームズはイギリスに帰って、意外な助っ人を見つけます。
それは、小さなワトソン博士とでもいうべき、ロジャー。
ホームズ、最後の事件の概要
ロジャーの助けも功を奏し、しだいにおぼろげな記憶の断片がひとつずつ繋がっていきます。
その事件は、ある男性の奇妙な依頼からはじまりました。妻が夫に隠れて音楽教室に通い、流産した子どもたちと交信をしているというのです。
その真相を探るべく、妻に近づいていくホームズでしたが、毒薬を購入し、夫の殺害計画を企てている様子。
夫殺しを未然に防ぐことができたホームズでしたが、事態は思わぬ方向へいってしまいます。
ここからはネタバレ注意
実は、その妻が殺そうとしていたのは、まさに自分自身だったのです。毒薬こそ、ホームズの目の前で破棄したものの、彼女が、最後に心を通わすことができる人だと思ったホームズに、「あなたを愛するご主人の元に戻りなさい」と優しく諭され、彼女は絶望し、絶命しました。
お腹のなかに芽生えた新しい命を失った悲しみを、夫と共有できなかったことが彼女の絶望の旅のはじまりだったわけですが、その悲しみを表すキーワードに「お墓」が出てきていたのが印象的でした。
しばらくの間、自分のお腹のなかで命が生きていた証として、「流産した子どもたちのお墓を建てて欲しい」と夫に頼んだ妻でしたが、亡き骸がないため、夫は墓を建てることを拒否します。
そこで、彼女の悲しみは、楽器を奏でながら、亡き子どもたちと交信するというカタチで昇華されていたのですが、その行動を理解できない夫に阻まれ、ますます孤独感を募らせていき、そこにシャーロック・ホームズが出現したというわけです。
彼女の孤独に気づいていたホームズでしたが、彼自身が孤独感を知識で埋め尽くして生きてきたため、探偵としては救えたとしても、ひとりの人間として支えてあげることができなかったのです。
そうして、悲しい結末を迎えた事件の真相を思い出したホームズは、彼女が子どもたちの墓を建てようとしていた墓地に向かいます。
そこに建っていたのは、この世に生まれることができなかった息子と娘の小さな墓と、その2つの墓に囲まれるように、彼女の名前が刻まれた墓がありました。
実はこの映画、ほんとにお墓がキーワードになっているかのように、序盤のシーンから墓地が映し出されているんです。
「私にはやり残したことがある」
ホームズは、事件を解決する類稀な能力を、最後は身近にいる大切な人のために使い、ラストシーンでは、彼とともに過ごし、彼が救うことができなかった人のために祈ります。
あの広島の地でみた日本人に倣い、亡き人に見立てた石を置き、祈りを捧げるホームズ。
ついに、彼の心にも平安が訪れたことを表現しているようでした。
ワトソン博士を亡くし、孤独におちいった晩年のホームズでしたが、誰よりも孤独感を知っている彼が、最後の事件をとおして、人とのつながりの大切さを発見したのかもしれません。
事件は解決してきたけれど、人生にも解決すべきことがあったホームズ。それがとても人間的で、この映画の大きな魅力となっていました。
仕事で成果を出し続けてきた彼も、最後は身近な人とのあたたかな心の交流に支えられ、そして、友人との思い出に支えられていくのでしょう。それは、最後にホームズが私たちに教えてくれた答えのようでもありました。
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