「古いもの」は、なぜこれほど私たちを魅了するのか

高岡まちっこプロジェクト

七夕の昨日、あなたはどんな一日を過ごしましたか?
私はまだ日が明るいうちに、を見た気がしました。

今日はそんなお話を。

午前中は、高岡市の高峰公園横にある「たかしんサポートセンター」でおこなわれた『中古リノベーションで手に入れる憧れのライフスタイルセミナー』に参加。

三人の建築士&インテリアコーディネーターの方々が、それぞれ携わった事例をご紹介されましたが、ご自身の事務所をリノベーションした「空創建築計画事務所」の林さんのひと言が、とても心に残りました。

自宅近く、古い町並みが少し残る高岡市の吉久で、空き家を事務所にリノベーションした事例です。

もとは倉庫として使用されていた建物で、一階を駐車場、二階を接客スペース兼事務所としてリノベーション。
吉久の古い町並みに合わせて、外観もレトロな雰囲気にしたそうです。

訪れる来客が「居心地がいいねぇ」と声をそろえて長居していくそうですが、それは日差しが入る明るい空間、内装のデザインがもたらしているだけでなく、その建物がその土地に長く根づき、地域に受け入れられてきた包容力がもたらしていると語る林さん。

また、地域の住民にとっては、空き家が減ることは防犯上でも安心感があるのだとか。空き家としての中古物件をリノベーションする魅力は、年月が経った建物が持つ包容力を受けとることができ、さらに地域へ安心感をお返しできること。

これは新たな視点だな、と感じ入っていると、セミナー会場の近くで、空き家を生かしたイベントが開催されているとの情報が!

同じくセミナーに参加していた不動産鑑定士の服部恵子さんら、チーム梅花堂が取り組む「高岡まちっこプロジェクト」の一環で、近くにある和菓子店「梅花堂」さんの空き倉庫を活用し、一日限定のカフェがオープンしているとか。

徒歩数分で行けるということで、さっそく高岡市通町(とおりまち)にある梅花堂さんの斜め向かいにある倉庫に向かうと、こんなかわいらしいcafeがオープンしていました。

高岡まちっこプロジェクト

普段は、空き家から出た家具や廃材を置く倉庫として使っているそうですが、古道具や廃材からリサイクルした家具を売る「蚤の市」も不定期に開催していて、今回はその廃材をもとにカウンターができあがったこともあり、実験的にcafeをオープンしたそうです。


梅花堂に来店されるお客さまが和菓子を食べながら、お店でお話をされていく光景がすでにあり、このcafeが梅花堂のお客さまが利用できる飲食スペースとして、また今後は「bar」としても若い世代が利用できるようにしていき、新旧の世代が行き交う場所として再生されればと、服部さんは語っていました。

こういった活動は「地方創生」として、あらゆる地域でさまざまな取り組みが行われていると思いますが、空き家となった場所をたんに空き家として見るのでなく、「昔からそこにある場所」として、若い世代だけでなく、現在のシニア世代を巻き込んだカタチで生かそうとしている服部さんたちの取り組みは、あらたな街づくりやコミュニティづくりに生かされていくのだろうと思います。


午後からは、気になっていた高志の国文学館の企画展「宮澤賢治 童話への旅」のギャラリートークを拝聴。

宮澤賢治の童話にある、彼の、そして当時の地方の日本人が持っていたであろう自然への眼差しは、たび重なる自然災害におびえる現代人の私たちにも通じるものがあると教えてくれます。とくに「狼森と笊森、盗森」は、その象徴的な童話で、小岩井農場の北の方に入植するためにやって来た村人たちが、森と共存共栄していくお話です。

「ここへ畑起してもいいかあ。」
「いいぞお。」森が一斉いっせいにこたえました。
 
みんなは又(また)叫びました。
「ここに家建ててもいいかあ。」
「ようし。」森は一ぺんにこたえました。
 
みんなはまた声をそろえてたずねました。
「ここで火たいてもいいかあ。」
「いいぞお。」森は一ぺんにこたえました。
 
みんなはまた叫びました。
「すこし木(きい)貰(もらっ)てもいいかあ。」
「ようし。」森は一斉にこたえました。
 
男たちはよろこんで手をたたき、さっきから顔色を変えて、しんとして居た女やこどもらは、にわかにはしゃぎだして、子供らはうれしまぎれに喧嘩(けんか)をしたり、女たちはその子をぽかぽか撲(なぐ)ったりしました。

村人が、森に、そこで生きていた動物に敬意をはらい、そのお礼に粟餅をあげ、また自然がそのお礼の粟餅をねだる姿は、人間と自然が呼応しあっているようでもあります。

これは、森をつくった自然が積み重ねてきた時間にたいする敬意であり、リノベーションする中古住宅への眼差しや、空き家がある町と住民にたいする眼差しと、根底にあるのは同じものだと感じました。

私たちが何かを作るとき、そこにすでにあるものや自然、歴史といった「蓄積された時間」にどのように向き合うのか。

私があつかうお墓(墓石)は、まさにその時間への慕情や敬意、そしてそこから刻まれる未来なしには語れないものであることも、この日出会ったこれらのエピソードに心動かされた理由かもしれません。

ちなみに、宮澤賢治の「狼森と笊森、盗森」では、村人たちと森との物語を語っているのが、大きな巌(高く大きな岩)です。
また、賢治は「石っこ賢さん」とあだ名がつけられたくらい、子ども時代は近くの河原で石や鉱物を探すことが好きだったようで、自然への洞察が深い賢治をしても、石に時間を語らせる役を与えたことに、私たちも彼の思想と根底でつながっている気がしてなりません。


「銀河鉄道の夜」を生んだ賢治にちなみ、七夕の日に出会ったこれらのエピソードは、図らずも私の心に流れ星のようなきらめきを与えてくれたのでした。

 

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