美術館へ行くと見えてきた「墓」という物体への思索

5月9日は、富山県の「県民ふるさとの日」です。石川県から分離して、富山県として独立したのが、1883年(明治16年)の5月9日で、置県130年を記念して定められました。
県内の施設が無料開放になるこの日、わたしが向かったのは、TAD(富山県美術館)です。

企画展の「わたしはどこにいる?道標(サイン)をめぐるアートとデザイン」では、普段使うことのない脳の部分(どこかはわからない)が激しく刺激され、コレクション展の「瀧口修造 オブジェショップ」では、「わたしが常日頃抱いていた問いはこれだったのか!」と大きな発見をすることができました。

物体とは客体でもある。瀧口修造のオブジェの論考

今回はその瀧口修造のコレクション展から得た自分なりの発見について書きます。

細江英公「瀧口修造」

瀧口修造は富山県出身で、シュルレアリスム(超現実主義)の理論を日本に紹介した美術評論家です。

60年代以降、美術家たちとオブジェの制作を行い、「オブジェの店」を持つという構想を描きはじめた瀧口。今回のコレクション展では、それらの展示とともに、オブジェについて書かれた文章も展示され、彼の「オブジェ」の世界観を味わえる展示となっていました。

TAD コレクション展より

オブジェには、作られた物だけでなく、自然の産物、各地で拾ったもあり、彼の物体への眼差しに、何かしら惹かれるものを感じます。

それは何なのだろうか。

漠然とそのようなことを考えながら展示物を観ていると、瀧口が考える「オブジェ」には、「物体」以外に「客体」という言葉が使われていて、そこに物体(オブジェ)に対する彼の思考の片鱗が表れているように感じたのです。

「あらゆる物体には、意識的であると同時に実際的な利用に通ずる道と、無意識的であると同時に潜在的な意味に通ずる道との二つが認められる。

(瀧口修造「物体の位置」『近代藝術』)

物には本来の実利的な存在価値があるだけでなく、それを見る者や所有者によって、「客観的な意義=生命が与えられる存在である」と言っているのではないでしょうか。

瀧口がシュルレアリスムをもって、わたしたちに訴えるのは「オブジェの潜在的な内容について意識的になれ!」というメッセージであり、それは現代の「モノの再定義」に通じている論考ではないかと思うのです。

物(体)は、主観的と客観的な表現が重なり合う宿命を持ち合わせている。

モノをたんに実利的に見るのでなく、そのモノにある客観的表現を見出すことが必要だと説く瀧口。

これは、お墓というモノについて、わたし自身がずっと考え、抱いてきた感覚でもあります。

お墓のコト論を言い当てている!?

どういうことかというと、例えば墓というモノであれば、「埋葬場所」としての実際的な利用価値があります。それその物の価値として主観的であるのが、埋葬場所としてのお墓です。

そこに文字が刻まれ、年月を経ることで、そこにたずさわった人々、墓の所有者であったり、墓参者の体験(もちろん墓に眠る人の存在も)を得ることで、墓は客観的視点を得ます。

我々は、モノとして墓を提供するだけでなく、墓はこのように客観的視点や表現を持ち合わせていることを伝えていく役目があり、それをずっとどうにかして表現しようとしてきたわけです。

そして、同時に間違えてはいけないと思ってきたのは、その客観的視点とは、わたしの視点であってはいけないことです。わたしの視点は、言いかえれば石材店側の視点や価値観であり、そういったものを押しつけることが役割ではないということ。

そうではなくて、物事には表と裏、光と影があるように、その物をとおして見え、得られる(もしくは失う)何かを認知する能力を鍛えること。現代的にいうと、それはメタ認知能力と言ってもいいかもしれません。

それが、瀧口のオブジェ論であり、お墓のコト論にもつながるのではないかと気づいたのです。

私の部屋にあるものは蒐集品ではない。その連想が私独自のもので結ばれている記念品の貼りまぜである。時間と埃をも含めて。
-(略)-
そのごっちゃなものがどんな次元で結合し、交錯しているかは私だけが知っている。

瀧口修造「夢の漂流物」

集めたオブジェについて、こう語っていた瀧口。彼は、それらひとつひとつに意味を見出すことを楽しみ、彼だけがその文脈を理解しているのだと言っています。

お墓が発していることも、ここにあると思うのです。
それは、物をとおして意味を考え続けることであり、生きることは考え続けることだという普遍的なメッセージではないかと。

自分だけの文脈を探す旅。
生きるとはその旅を続けていくことであり、お墓という物体は、ときどきそのことをわたしたちに思い出させてくれる存在だと思うのです。

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