のど仏を動かした犯人は? ~スナダマンの事件簿~

よくあるご相談に、お墓の納骨堂のなかで「骨壷が破損している」というものがあります。数年前に納骨した骨壷が破損し、古いご先祖さまのものが割れていないという状況もあります。

そんなとき、「古いのが割れていないのに、新しいほうが割れているのは、誰かが開けて破損させたに違いない……」という発想に人はおちいるもので、納骨堂の扉に鍵をかけて欲しいと依頼を受けることが少なくありません。

このようなご相談のほとんどの場合は、骨壷が割れるのは納骨堂内にたまった湿気が原因になっているので、その説明をして、湿気がたまりにくいように中のリフォームをします。

富山の骨壷は素焼き製を使用するので、湿気を吸いやすく、たしかに劣化しやすいのですが、陶器製にくらべると吸った湿気を吐き出せるので、お骨がカビにくい一面もあります。

納骨堂の底に敷いてある土の上に玉砂利を敷き、空気の層をつくる

ただ今回のケースは、納骨堂のなかであることが起こっていて、それを自然現象で説明することができないため、お客さまが「誰かのしわざに違いない」という考えを捨て去ることができない事例になります。

たしかに、実際に墓が荒らされる事件が起こることはありますし、ましてや自然現象については証拠を出すことができない(人間によるしわざではない証拠がない)ので、一度とりつかれた疑念を晴らすのはむずかしい場合もあります。

破損した骨壷から喉仏が数十㎝動いているのはなぜ?

今回のご相談者は、約4年前にも「骨壷が割れているが、誰かのしわざではないか」と相談に見えられ、そのときにも湿気が原因で割れた可能性をご説明し、骨壷を新しくすることもふくめ、お寺に相談したのち、お客さまからご連絡いただくことになっていました。しかし、その後連絡がなかったので、そのままになっていた経緯がありました。

以前割れたお父さまの骨壷の隣に、あらたに納骨されたというお母さまの骨壷の蓋も割れたことで、「どうして新しい骨壷から割れていくのか。古い骨壷は何にもなっていないのにおかしい」という疑念と、さらに「その割れた骨壷のなかにあった喉仏が、数十㎝も動いていた。これは自然現象なわけがない。だから、誰かのしわざに違いない」ことが原因で、再度ご相談に見られたというわけです。

撮影された写真をまず確認したのですが、破損している2つの骨壷は納骨堂内の四隅側にあり、おそらく隅にある骨壷がダメージを受けたようです。

最初に相談に見えたときは、お父さまの骨壷がいちばん端に置かれていたのでしょうが、その後お母さまの骨壷をさらに四隅側に置いたことが一因になっていると思われます。

四隅側はいちばん湿気がたまるため、お母さまのも破損してしまい、いちばん端になったお母さまの骨壷が、となりにあるお父さまの破損よりひどい状態(蓋が完全に劣化)になったようでした。

そして、最近の骨壷よりもずっと前から安置されているほうに何の破損もないのは、その上部に風窓があることで、換気されているためだと考えられます。

このように骨壷の破損は説明がつくのですが、お客さまが言われるように、前はそこになかったお父さまの喉仏が骨壷から数十㎝はなれた箇所に落ちているのは、さすがに説明がつきません。

「喉仏が歩くわけがないのに、どうして骨壷から離れたところに喉仏があるのか。誰かがさわったに違いない」

わたしも心霊現象は信じないほうなので、その部分だけが説得できず、どのような鍵をつけるべきかを確認するためと、じっさいにその動いている(?)喉仏を確認するために、スナダマンこと社長と一緒に墓地に向かいました。

事件のカギは納骨時にあった!

骨壷から飛び出ている喉仏が入っている袋


じっさいにその喉仏を確認すると、たしかに骨壷から離れたところにあり、自然現象で骨壷から飛び出たと考えるにはおかしいことがわかりました。

何らかの力が加わった、もしくは親類の方がさわったなど、ご本人が知らないところで何かがあったとしか考えられません。

または、ご本人が喉仏を移動していることを覚えていない可能性も否定できなくはないのですが、それも不思議です。そもそも喉仏だけ、どうして移動させる必要があるかの説明がつきませんからね。

帰り道、そんなことを話し合っていると、スナダマンがひらめきました!

わかったぞ!

「あの喉仏は骨壷から出たんじゃない!もとからそこにあったんだ」

スナダマンの推理

浄土真宗では、火葬した際に遺骨のうち喉仏は本山に分骨するために、別の巾着袋などに納められます。本山に分骨しない場合は、四十九日の納骨時に骨壺に一緒におさめて納骨することが多く、最近でははじめから分骨しない人も増えています。

おそらく今回のケースは、手前に移動したかのように見えた喉仏の分骨の袋は、じっさいには四十九日の納骨時、または次に納骨されたお母さまのときにでも、どなたかの手によってはじめからそこに安置されたと考えられるというのです。

ご相談者は女性の方で、そのとき納骨したのが男性の別の親類の方であれば、納骨堂の中の様子はしっかり目にしてなかった可能性があります。

はじめにお父さまの骨壷が破損していることに気づいているということは、おそらくお母さまの納骨の際に割れているのを確認した可能性が考えられます。その際に、分骨しなかったお父さまの喉仏を、別の方が骨壺の中にではなく、扉を開けてすぐ手前に安置した可能性が高く、てっきり骨壺に納められたと思っているご相談者は、どうしてここに喉仏があるのかを怪訝に思っているというわけです。

喉仏をくるんでいる袋と紐のようなものの残骸は残っていますが、巾着袋は土のすぐ上に置かれていたため、すでに劣化していることを考えると、あの状態の説明がつきます。

謎が出たのはコミュニケーション不足と決めつけか

ただ、この推理が正しいとすると、どうしてこの話を先に納骨にたずさわった関係者に聞かなかったのかが不思議です。そうしていたら、すでにそこで解明されていたはずですが、もしかしたら、その方たちも亡くなってしまっているのかもしれません。

また、ご相談者は相談に見える前から、すでに「第三者によって納骨堂が荒らされている」という仮説を信じ、それが今回の喉仏の件で証明されたと考えられており、その解明を望んでいるのでなく、その第三者に触られないようにしたいという強い希望がありました。

ですから、普通ならばこれは事件にはならないはずなのですが、いろんな事情が重なって、不思議な現象に見えたということになります。

犯人は「自然」でもなく、記憶違いでもなく、ましてや第三者でもなかったのですが、果たしてこの結末にご相談者は納得するのか……。

とりあえずスナダマン、今回もお手柄ということにしておきましょうか。

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