いま社会は大きな転換期、過度期にあることは間違いありません。そして、それがコロナ禍によって、いっきに加速した面があります。
たとえば満員電車での通勤をなくし、在宅勤務にシフトしていく動きもそうですよね。これまで「働き方改革」と叫ばれながら、遅々としてすすまなかった合理化、効率化が、新型コロナの感染予防対策とともにいっきに推しすすめられた感があります。
会議やミーティングがオンラインでできるようになったことで会社に通勤する必要性がなくなり、テレワークが普及しだすと、住まいの考え方にも小さな変化が起きています。
テレワークに対応する不動産物件が出てきたことだけでなく、じっさいに都心から郊外へ引っ越しをしたら、思いのほか生活の質が向上したという声も出てきているようです。
地方在住者がふえる可能性
働き方が変わり、それにともなって暮らし方が変わることは、長い目でみるとお墓にも少なからず影響を与えるのではないでしょうか。
今後、テレワークが一般的になると、人々は都心に住む必要性がなくなり、Uターンする人たちが増えててくるかもしれません。
~「どこに住むのか」ということも、今まで以上に重視される時代になりそうだ。例えば、従来は都市部への集中というかたちで進んできたが、より人口密度が低い郊外や田舎暮らしを選択する人たちが増える可能性もある。
このことはまだ、明らかなデータとしては表れてきていないようだが、筆者の周辺では都市部に居住する家族が、田舎にセカンドホームを購入するといったかたちで数件、実例として確認できている。~
『コロナ禍で住宅メーカーが商機を見いだす事情』 東洋経済オンライン
必ずしも生まれ育ったふるさとに戻るとは言えないにしろ、帰省できないことがこれからも起こる可能性を考えると、ふるさとに近い場所に住まいをうつす人たちが出てくる可能性もあるでしょう。
芸能界でもこうした動きがじっさいに起こっています。
「私たち夫婦、夫の実家である静岡県の浜松市に引っ越すことにしました」と報告。「コロナの緊急事態宣言から生活が変わりました。普通だった事が普通でなくなる世の中になりました。東京にいる意味を考えるようになり、主人の実家の浜松に引っ越す決心をしました」
日刊スポーツより引用
このように暮らし方が変わることで、実家の墓を継ぐ人が相対的に増える可能性もみえてきます。
子世帯の住まいが両親の住む地域とはなれてしまうことで起きてきた「墓の承継問題」が、住まい方が変わることで、もしかするとスムーズに解決するといったことが起こるかもしれません。
また、まだ墓を持たない人たちも、両親との住まいが近くなることで、従来の「家墓」をもとめるめる可能性があります。
ただし、こちらに関しては、夫婦どちらの実家を優先するのかは不確定なので、従来の家墓とは違い、両家墓のような形式になることも考慮しておく必要があるかもしれませんね。
墓の問題は暮らし方に直結する
こうして予想してみると、今さらながら気づくのは、お墓の問題は暮らし方、生き方に直結しているということです。
たとえば、墓じまいの増加は、住んでいる場所からお墓が遠く離れてしまうことが第一義問題にありました。地方の衰退じたいをを止めることができないため、人の動きにあわせてお墓のあり方も変化する必要があったのです。
また、お墓の多様化も、この継承問題の解決策として生まれた背景があります。
少子化、都心回帰が墓の継承を困難にするため、墓を継がなくていい墓地の形態が生まれ、従来の石のお墓ではない樹木葬や散骨、納骨堂、永代供養墓など、継承を前提にしないお墓が、ここ十年くらいで増えてきました。
このお墓の継承が暮らし方の変化により、スムーズに行われることになれば、従来型の墓石の良さが見直されることになるかもしれません。
従来型の墓石の合理性
もともと従来型の墓石、いわゆる「家墓」は、何世帯にもわたって一族が同じ場所に埋葬されるお墓なので、個々人で埋葬費をその都度おぎなっていくよりも金銭的には安くすみます。
また、お墓は基本的には外にあるため、密になることを気にせずに墓まいりができることも利点になってきます。
ただし、少子高齢化を考えていくと、前述にもあるように、ひとつの家だけでなく、夫婦でひとつの墓になる「両家墓」のほうが将来的には現実的かもしれませんね。
これら従来型の墓石がもつ合理性は、お墓を承継できるくらいに住まいが遠くない場所という前提条件があり、それはいわば「家を継ぐ」ことを意味していました。
そのため、家を継ぐという考え方がすたれてくると、お墓を継ぐことがデメリットになるケースが増えてしまい、お墓の問題が生まれてきたわけです。
合理的な家墓が、家や家族のあり方に直結していることで、非合理的で非効率な存在になるケースが増えてきたというのが、ここ最近の問題だったと思うのですが、それが逆転する可能性も出てくるのかもしれません。
そうは言っても「家墓」のあり方が、ひと昔前の家制度にあることには違いなく、わたしたちお墓をあつかう者たちが、すでにすたれてしまっているその制度に、必死になってつながろうとするのは何か違うようにも思うのです。
だからこそ、家墓のあり方を、現代的に、アフターコロナの社会にともなった新しいあり方として提案していく必要性があると考えます。
それは、「お墓のまもりびと」というスナダ石材のコンセプトそのものに込められた想いでもあります。
その延長線上として、去年のいまごろは「おはかの手帖」を制作しました。「お墓は時間とともにある」という、お墓の物語性を強くうったえたいと考え、それを表現するツールとして生まれたものです。
今後は、この手帖の中身がじっさいにお家のお墓とつながるような、そんなITツールをつくり、家制度の延長にある家墓ではない、次世代としての家墓の価値を高められるような試みに取り組みたいと考えています。
コロナがお墓を変える、いや戻すかもしれないといった予想となりましたが、従来型のお墓の価値をアップデートできるか否かは、まだまだこれからといったところですね。