Spotifyのプレイリスト「お墓まいりに行こう」に、ビートルズの名曲である「The long and winding road」を追加しました。
この歌はポール・マッカートニーの作詞で、日本ではビートルズのラストシングルとして発売されました。
タイトルにもなっている「長く曲がりくねった道」とは、じっさいに彼が所有していたスコットランドの農場近くの道を表しているそうです。
歌が生まれた背景について、当時のポールはこのように語っています。
「あの頃の僕は疲れきっていた。どうしてもたどり着けないドア、達し難いものを歌った悲しい曲だよね。終点に行き着くことのない道について歌ったんだ」
この曲は物悲しいラブソングとして作られたのではなく、スコットランドと彼の当時の心象風景が重なりあって生まれていたのでした。
(※TAP the POP「ビートルズの『The long and winding road』が発売された日」参照)
愛する家族を失ったあとの道
そしてこの「The long and winding road」の歌詞を彷彿させる、あるお客さまのお墓の建立ストーリーがあります。
まだ若かった息子さんを亡くしたご一家。
お施主であるご夫婦もまだお若かったため、これから長い間ご家族で足を運ぶことになるであろうその場所には、息子さんを偲ぶメモリアルストーンを据え付けた素敵なデザイン墓石が建てられました。
市営霊園に建てたそのお墓について、あるとき奥さまがこう尋ねてこられました。
「いつかこのお墓を守る人がいなくなったら、このお墓はどうなるのですか?」
その質問に心配無用とばかりに、社長(夫)はこう返答しています。
「墓を守っていく人がいなくなっても、無縁になった人のための納骨堂が墓地内に作られているので大丈夫ですよ」と。
もし今から建てるお墓が将来的に無縁墓になったとしても、行政側が何らかのカタチで、その納骨堂に改葬することになり、無縁墓として残る心配はないということを伝えたつもりでしたが、奥さまは物悲しそうに、こう呟きました。
「このお墓を守る人がいなくなっても、お墓だけ残っていてほしい……」
お施主の言葉からわかったのは、無縁墓になる心配をしたわけでなく、息子さんが生きた証としてお墓が永遠にそこに残ってほしい、という想いでした。
市営霊園ということで、墓地の規則にもとづくため、無縁墓となってから一定の年数が経過した場合はおそらくお墓は納骨堂に改葬され、更地となってしまうはずです。ただし、それはご家族がすべてお亡くなりになり、さらに誰もその墓を守る人を指定しなければということですので、遠い将来の話となるでしょう。
言いかえるなら、そのときは「長く曲がりくねった道 the long and winding road」の終点だといえます。
お客さまとの会話から、この歌のフレーズが浮かびました。
君の扉へと続く、長く曲がりくねった道
決して消えることはない
その道を前にも見たよ 私をいつもここへ……
君の扉へと導いてくれる
「your door 君の扉」は、先に旅立った人がいる場所である「墓」(天国や浄土とも)をあらわし、そこへたどり着くまでの「long and winding road 長く曲がりくねった道」、いわゆる「人生」を歩いていく映像のようなものが、そのお客さまの言葉で浮かびあがってきたのです。
なぜ私はここに立ち尽くしているの、行く道を教えてよ
参照:TAP the POP
私は何度も一人きりになり、何度も泣いていた
君には決してわからないだろうけど、私はたくさんの努力をしてきた
それでも長く曲がりくねった道が目の前にのびている
ずっと昔、君は私をここに置き去りにした
私をもう待たせないで……君の扉へ導いて
お墓の建立後、こちらのお施主は、毎日のようにお墓参りに行かれているそうです。たしかに、いつ行ってもキレイなお花が供えてあります。
この歌とこのお施主のお墓にまつわるストーリーが重なりあい、それからわたしにとってお墓はたんなる石碑でなく、建てた人やそこで手を合わせる人たち一人ひとりが終着点である「君の扉」へたどり着くまで歩いていく、長く曲がりくねった道を映像的に浮かびあがらせる存在となったのです。
わたしが「おはかの手帖」をつくったのも、この歌とこれまでのたくさんのお施主の存在があったからで、長く曲がりくねった道の途中で、ひと息つきながら、やさしく未来を考える時間を持ってもらえたら、という想いがあります。
お墓とその家族にまつわるストーリーをのせてこの歌を聴く人間がいるとは、歌を書いた当時のポールマッカートニーは想像もしなかったでしょうが、名曲には誰かのストーリーの一部を包みこむ力があります。
「The long and winding road」を「お墓まいりに行こう」のプレイリストに加えたのは、こういった背景があったからなのです。