ブラピ主演の『アド・アストラ』を『死の哲学入門』を用いて解説してみる

息子ロイの死生観

ロイもある意味では、クリフォードと似た一面がありました。

父は自分たち家族を捨てたのではないかという疑念と悲しみの感情に支配されないようコントロールして生きており、その弊害としてリブ・タイラー演ずる恋人が去っていくのですが、宇宙飛行士としてはその抑制された面が良い影響をあたえているのも事実です。

ロイにとって宇宙への父の探索の旅は、父の真実に向き合い、自分自身と向き合うこととなります。自分自身と向き合うことは、この映画では「死生観」と向き合うことを意味しています。

彼がたどった心の旅路は、『誰も教えてくれなかったの哲学入門』第4章に登場するハイデガーが示した死生観に近いのではないかと思います。

彼は「世界的内在」という概念を示すことによって、死生観にあらたな視座をあたえました。

人間は何かを思うよりも前に、その世界に投げ込まれてしまっています(ハイデガー流には「被投性 」)。それを、引き受け、了解しつつ存在しなければならないのが人間のあり方で、ハイデガーはそれを「世界的内在」と呼びました。

引用 『誰も教えてくれなかったの哲学入門』

ロイでいうと、「優秀な宇宙飛行士」という周囲の期待のなかで、誰にも心を許さずに生き、父を探して連れ戻すというミッションを達成することが、彼の「世界的内在」といえるでしょう。

ロイの場合は自ら望んで宇宙飛行士になっていますが、宇宙飛行士になることじたいも父クリフォードから託されたことであり、そういう意味ではハイデガーの視座でいう
「闇鍋のような意味のわからない世界に投げ込まれた(ハイデガー流には「被投」)小さな人間の姿です。」<引用 『誰も教えてくれなかったの哲学入門』

そのうちのほとんどは、日々の暮らしに埋没した人(ハイデガー流には「ダス・マン(世人)」)として生きているとハイデガーは考えます。埋没状況から脱するにはどうすればよいのか?
まずは、前倒しで「死」を引き受ける(ハイデガー流には「企投」)ことを考えてみましょう。人生の締め切りは意外に近いかもしれないのです。
これがハイデガーの死生観の主軸となる「先駆的決意性」というものです。それは、あくまで疑似的に死に、それによって「生き直す」ことに近いものです。正確には、死の直前の心情を先取りして、死を一度経験したかのごとく想起し、逆算していまの人生を生き直し始めるといったものでしょう。

引用 『誰も教えてくれなかったの哲学入門』

父クリフォードの死は、ロイにとって「疑似的な死」のモデルとなり、父の生き方に知らず知らずのうちに影響されていた「埋没状況」からの脱出となり、あらたに自分の人生を「生き直す」決意(先駆的決意性)へとつながります。

感情を素直に表現することがその第一歩であり、地球に帰還するさいに救助の人に手を差し出す場面は、まさに彼が宇宙という「死」からの再生を意味していたようでした。

たとえ死や別れが待っているのが人生だとしても、生きているその過程では他人との心の交流をはかりたい。シンプルだけど幸せな生き方をようやく追求するにいたったロイは、地球でもう一度恋人とやり直そうとします。

『誰も教えてくれなかったの哲学入門』では、ハイデガーが示した死生観を「カーナビ」にたとえ、

目的地を「死」という行き止まりに設定し直し、そこに至るまでの道程や行き止まりとしての死をふくめた全体性、つまり人生というドライブが充実してるかどうか(先駆的決意性を持つか否か)、その濃度にこそ意味を見出したわけです。

とあり、まさにロイによって見いだされる死生観はハイデガーのそれといえるのではないかと思います。

本書では、ハイデガーは「西洋哲学の死生観を更新した」と表現されていますが、『アド・アストラ』はいまの西洋人の死生観をあらわした映画というと、強引すぎるでしょうか。

本書を読むとわかりますが、哲学者にとっても死生観はさまざまで、その真理はすぐそこにあるようで、はるか彼方にあるようにも感じられます。

ちなみにタイトルの『アド・アストラ』とは、ラテン語で「星々(天界)へ向かって」の意味で、古代ローマ帝国の哲学者ルキウス・アンナエウス・セネカ紀元前4年~紀元後65年)も、”non est ad astra mollis e terris via” という一文で使っています。

この文は「地表を離れ星々へと至る容易な道は存在しない」という意味ですが、星々(天界)が死生観の真理を意味するとしたら、その時代や国によって、死生観そのものはうつろうものであり、簡単にたどり着くものではないことを表現しているようにも受けとれます。

この宇宙はどのような構造になっているのかを問う「宇宙論」と、その内側で暮らす人間の「死生観」には密接な関係があると思います。

引用 『誰も教えてくれなかったの哲学入門』 第10章 ジョルダーノ・ブルーノ「深く結びついた「宇宙観」と「死生観」

いつか未来に人類が宇宙へ移住したとき、その死生観はいまの私たちとどのように違うのだろうか。

映画と本書をとおして、そんな思想の旅をしてみるのもおもしろいかもしれませんね。

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