お墓(ここでは墓石のこと)は「もの」のなかでも、それ自体の価値が非常に曖昧な物体といえます。
いらなくなったからといって、中古品として売ることもできず、骨董品のように、そのものが生まれた年代が古いほど価値が上がるわけではありません。
その価値をはかる客観的視点が存在せず、お墓を所有する人の主観的視点がすべてです。
お墓をこのような資本主義経済の視点でみると、価値を見出すのはむずかしいのかもしれません。なぜなら、お金に換算できないから。
しかし、私たちは貨幣経済のなかで生きながら、「価値」について話すときに、それは必ずしも「お金」を意味しているわけではないのも事実です。
たとえば「人の価値」という言い方に、人身売買を想像する人はほとんどいないはずです(笑)。「価値」という言葉には、金銭の価値を超えたサムシングがあると考え、その判断や識別が基づくものを「価値観」といいます。
では、私がお墓の価値を感じるときは、どのようなときか。
最近の事例ですが、富山にあるお墓から兵庫県の新しいお墓に改葬するエピソードを少しご紹介します。
富山のお墓は墓じまいすることになるので、そこに納骨されていたいくつかのお骨、それも古いご先祖のお骨をひとつにまとめたいというお話でした。
数あるお骨壺のうち、小さなお骨壺が一つあったのですが、そのお骨は亡くなったご主人の前に生まれていた、戸籍上はご主人のお兄さんにあたる、一歳で亡くなった赤ちゃんのお骨だそうです。
その赤ちゃんは、8月2日に亡くなっているそうですが、亡きご主人の誕生日は6月2日で、両親にとっては、幼くして死んだわが子がもう一度生まれ変わったように思ったのか、ご主人には同じ名前がつけられたそうです。
「そんなエピソードを聞いているので、できたら義理の両親とその赤ちゃんを一緒の骨壷にまとめてくださいませんか」
このように、その人にまつわる独自のストーリーをお聞きすると、そのお墓の価値が一気にあがる気がします。
このお話を聞くまでは「古いお墓から新しいお墓への改葬案件」でしかなかったものが、その背景のストーリーを知ったことで、古いお墓の求心力が上がり、私にとっても価値あるお墓になっているのです。
お墓の建立時に聞くお客さまのエピソードもおなじで、誰しもが唯一無二のストーリーをもっていて、そのストーリーがプライスレスな価値になるのだと思います。
「モノの価値」は「人」にひもづく
ストーリーをつくるのは「人」であり、「その人のストーリー」に価値があることは、かの有名な老舗ブランド「エルメス」のバッグからも理解できます。
ハリウッド女優であり、モナコの王妃であったグレース・ケリーが、妊娠中のお腹を隠したことで有名になった「ケリーバッグ」。
ファッションアイコンでもある女優、ジェーン・バーキンにちなんだ「バーキン」では、高級バッグをカジュアルに普段使いするオシャレ感覚を打ち出すことに成功しました。
そのブランドの持つイメージを広く普及させるために、今でいうインフルエンサー(世間に与える影響力が大きい行動を行う人物)をうまく活用したエルメスは、「誰」が持っているかの価値を十分に知り尽くしていたのでしょう。
エルメスには、こうした「人」にひもづくストーリーがあり、私たちはそのストーリーを買っているといえます。
そういう意味では、私たちのお墓の仕事も「エルメス」と同じ戦略をとっているといえるのかもしれません。
あれ、ちょっと大きくですぎたかな(笑)