「共感」より必要なこと-共生社会を考える「ごちゃまぜ・とやま」シンポジウム

教育現場の福祉には、大きくわけて3つの視点があり、そのどれかに偏らないようにしないといけないと、乙武さんはいいます。

  • 教える側
  • 教わる側
  • 社会的視点

教える側の視点でいうと、その対象が一律であるほど、やりやすい面があります。能力も性別も、それが同一であれば、環境整備も変える必要がありません。

しかし、教わる側には、教わる側の個別の状況があり、それは一律ではない。

そして、教える側と教わる側の視点を支えるのが、社会的視点となります。

社会が効率と合理性を重要視するなら、共生型よりも、分断する方が合理的になります。短期的視野でみても、そのほうがコストがかからず、税金の負担も抑えられるからです。
しかし、長期的視点で考えると、社会的コストがほんとうに低くおさえられるのかどうかは疑問が残ります。

どこに力点を置くのかを、社会全体で考えていく必要性がでてきているのでしょう。

日本と海外の違い

テーマ③ 障害の当事者の視点から感じる日本と海外の違い

テーマは次に移り、じっさいに海外で生活をされた乙武さんを中心に、日本社会との違いを語り合います。

諸事情により(笑)、日本にいずらい状況で、一年ほど海外に行っていたと会場の笑いを誘う乙武さん。
ロンドンの地下鉄での体験をお話しされました。

そこはエレベーターもなく、車椅子の人が利用するためには、他者の手を借りないといけません。

「こういった状況で、あなたが車椅子だったなら、この地下鉄を利用しますか?」

わたしは「NO」でしたが、会場の8~9割近くの人が、同じく利用せずに、別のルートなり手段を使う方に挙手していました。

ロンドンでは、この割合が真逆になるそうです。というのも、ロンドンでは、周りの人がだまって、車椅子の人やベビーカー持ち上げて階段を降ろしてくれるから。他者への想像力がはたらき、困っている人を助けることが当たり前になっているのです。

日本はインフラはそれなりに整備されていますが、じっさいに社会に多様性を受け入れる土壌ができているのかと問われると、あまり自信がありません。
たとえば、ベビーカー問題(満員電車内でベビーカーを広げることの賛否をめぐる論争)もそうですが、日本社会は弱者となってしまう立場の人にたいして、「自己責任論」で対処しようとする側面が根強いと乙武さんはいいます。

それは子育て世代の排除にもつながり、ニッポン一億総活躍どころの話ではなくなります。

海外との違いという点では、今の日本社会は合理性を重んじてしまっているがゆえに、ソーシャル・エクスクルージョン(社会的排除)につながってしまっている面があり、そこが危惧されます。

その危惧が実際に起こってしまったのが、2016年に起こった相模原殺傷事件でした。その反省を生かすためにも、共生社会への理解とその土壌づくりが必要になるのですが、乙武さんはそのために必要な考え方についてこう説明していました。

それは、共感と理解の違いを知ることです。

共感するのは「むずかしい」ですが、理解は「できる」から。自分と違う立場の人に共感まではできなくても、たとえばこのような場で話を聞き、理解しようとすることは、その意志さえあれば可能だからです。

そう言われてみると、最近、社会全体が同じような共感をもとめよう、もとめようとしているところがあるように感じます。

敗戦、そして戦後を迎え、みな同じ物語を共有してこれたこれまでの日本社会。もともと同質的な社会で生きてきた日本人にとって、「共感」こそが重要なキーワードであったのかもしれません。

しかし、社会がどんどん複雑化していくなかで、すべてのことにおいて共感をもとめてしまうことは、その反対語である「反感」につながってしまう怖れがあるともいえます。

乙武さんが言うように、誰しもが共感しあうことはハードルが高い。でも、共感できないことは罪ではない。共感をもとめる社会をつくろうとするのではなく、もっと意志と知性を発揮して、まず知ることをはじめる必要があるのです。

そして最後のテーマ。それぞれの登壇者が、「多文化共生社会」のために必要なことを発表しました。

  • 乙武さん 「モノサシは一つじゃない」
  • 石政さん 「ちょっこし(ちょっとの富山弁)挑戦
  • 村上さん 「やさしさ『優』『易』づくり」
  • 藤井さん 「誰もが主人公になれる地域社会」

石政さんの「ちょっこし挑戦」は、乙武さんの「知ることからはじめる」と同意で、最初からすごい挑戦をしようと肩ひじ張るのでなく、ほんのちょっとのところからはじめる理解が大事だとおっしゃっていました。

村上さんは、「やさしさ」を、同音異語の漢字で表現し、感情面での「優しさ」と、仕組みや行動面での「易さ」、そのどちらの視点も大事にしていきたいと語り、ファシリテーターの藤井さんは、認知症を例にとり、「認知症予防に興味がある人はたくさんいるけれど、わたしは認知症になっても主人公になれる地域社会になるほうに力を入れたい」と語りました。

最後に

一人ひとりが何かを感じ、行動することが共生社会の実現となっていく。
専門知識を学んだり、共感することはむずかしくても、まずは「知ること」からはじめるのも、共生社会の実現の大事な第一歩になると思います。

「とやま型デイ」が全国に発信されたように、将来の日本社会がより良く変わっていくキッカケが、地域共生の実現から生まれる可能性があります。

その実現を目指すことこそが、現代に生きるわたしたちが共有できる大きな物語になり得るのかもしれません。

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