お墓を「直感」と「感性」で語る時代へ

千利休は、歴史上はじめての「ディレクションはするけど、クラフトはしない人」であり、世界最初のクリエイティブディレクターだと説きます。

彼のすごいところは、「侘び」という極めて抽象度の高い美的感覚を、芸術メディアとは考えられていなかった茶室や茶碗などの具体的な道具に落とし込み、しかもそれを自らがクラフトするのではなく、職人を使ってプロデュースしているのです。

侘び茶という美意識をコンセプトの中心において、そこからブレることなく、その範囲を広げていきながら、世界観やコンセプトの芯が明確に浮かび上がってくる。

 

「和樂」12・1月号

 

千利休が作りあげた茶の湯の世界観は、現代において「姿勢であり人生」となり、それはロックンロールでもあるとさえ解釈されています(本書でもロックと美意識の共通性に少し言及している)

ここで重要なのは、信長や秀吉が、あからさまに側近だけで周りを固める他の武将と比較して、アートを担うアドバイザーである千利休を重んじた、という点です。

この点に関しても、「まさにそれ!」と思った次第。
私たちの業界に置き換えると、多くの石材業者は経営者職人であり、発信するのも現場叩き上げの人が多いです。これは、戦国時代の信長や秀吉以外の他の武将が、側近だけで周りを固めることと同じ意味を持ちます。
いわば、「クラフト」と「サイエンス」が力を持ち、そこに「アート」の感覚が入り込む余地がありません。

千利休やアップルのスティーブ・ジョブズ、ユニクロのクリエイティブディレクターやデザイナー、無印良品のプロダクトデザイナーは、私たちの業界にはいない。

ここで、ハタっと思います。
待てよ、ということは、そこはブルーオーシャンだ!

つねづね、この墓石業界に「アート」の感覚を持ち込みたいと思ってきた私。いや、業界などと大きなことは言わずに、自分たちのお店で、自分たちの世界観を打ち出していきたい。

この考えは、私が嫁ぐ前に、一番長く勤めていたアパレルショップの販売員のときも同じでした。

「このブランドの世界観を伝える」

自分だからこそ伝えられる美意識、世界観、ストーリー。それを発見し、伝え、喜ばれることに生きがいを感じ、それと同じことを、この仕事でもやろうと思ったのが、もう14年前になります。

ただし、私には「クラフト」の経験的側面がなかった。
だけど、そこは夫がすべて担っているので、私は「アート」と、ときどき「サイエンス」(夫もサイエンスが得意であり、比較的若いため感性もある)を担いながら、デザイン墓石を打ち出したことは、とても自然な流れだったといえます。(本書では、「アート」を鍛えれば、「サイエンス」力も比例して上がるとも説明)

また、いろんなことで経験値は自然に上がってくるので、14年前に比べれば「クラフト」も高くなっているはず。

では、これからはどのように「アート」を取り込むのか。
それは、墓石のカタチやデザインといった部分だけでなく、お墓の文脈のところになると思います。

以前、金沢21世紀美術館で観た「デスラボ」、それに「工芸と建築」の世界観がつながっていると感じました。こういった、お墓ではない別のモノ、それは芸術の分野になることが多いかもしれませんが、そこにある美とお墓の普遍性という抽象的な概念を結びつけることで、アート性を表現していきたい。

「デスラボ」といえば、死と埋葬とアートを同じ文脈で、同じ世界で語る試みですが(「現代の「死」を発明せよ。金沢21世紀美術館「DeathLAB」キュレーターが追究する、近代的な人間観が滅びた後の芸術」)、なぜこういったことを、私たちの業界から発することができないのか。
そこに、若干の悔しさを覚えるのですが、少なくとも自分はそこを繋げて考えられる人間でいたいなと思います。

そのためにも、より美意識を鍛えていきたい。そこで、突出していきたい。
今までは漠然と必要性を感じていた部分でしたが、今年はそこに目的をもって行動したいですね。

「美意識」とは何か?
それを持つことの重要性、鍛え方、また美意識を発揮している企業の実例については、ぜひ本書を手にとって、理解を深めることをオススメします。

 

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