【透明なゆりかご】小さな命を見つめた人が建てたお墓

7月から9月までNHKで放送され、たいへん話題となった「透明なゆりかご」


講談社漫画賞(少女部門)を受賞したマンガの実写ドラマ版で、原作者は富山県出身の漫画家・沖田×華(おきた ばっか)さん。

幻冬舎plusより引用

ちょうどその放映日初日の午前中、沖田さんは、ふるさと富山で新しく建て替えたばかりのお墓に手を合わせていらっしゃいました。

ご先祖が大正三年に建てたお墓を建て替えたのですが、その古いお墓は、彼女の出世作でもある自伝コミックの完結巻「蜃気楼家族⑥」にも登場しています。


お墓を新しく建て替えるまでのエピソードが、この6巻の第39話「墓の違和感の正体」に描かれていました。

こちらがじっさいのお墓の写真になります。

土台石の上、天端(てんば)部分に、お父さまがご自分でコンクリートを流し込んだため水平になっておらず、また墓石の台石のところどころが欠けており、そこの部分もセメントで補修しているため、ツギハギのような状態になり、見た目に違和感がありました。

ここのところがマンガに描かれていました(笑)

このようにご自分で補修された形跡が残っているお墓というのは、たしかに見た目にはよくないのですが、それだけ愛着をもって大切にされてきた証でもあるので、私などは微笑ましく心あたたまるのですが、補修ほどプロにまかせないと、年数とともにその形跡がお墓全体の雰囲気を崩してしまいかねません。

沖田さんはご先祖さまに、「いずれ新しいお墓を建てるからね」と約束していたそうですが、ちょうどそのお墓参りから約半年後にお父さまが亡くなってしまい、お墓の建て替えに動くことになりました。

お墓の彫刻文字は古いお墓と同じに

古いお墓も大変大きく立派で、香炉など細かい部分にもセンスがありましたが、ところどころ欠けてしまっていることから、すべて新しく建て替えることにし、「倶会一処」の文字だけ転写することになりました。

 

もともとお墓が大きい地域ではありますが、ご家族が「昔はそれなりの家だったらしいけど‥(笑)」と言われていたように、大正の初期にこれだけのお墓を建立できるお家はそうそういなかったでしょう。

そして、平成最後の年。
新しく立派なお墓が、数代あとの子孫の手によって建て替えられました。

なぜ彼女はお墓を建てたのか

実は私は、彼女からお墓を建て替えたいと依頼があったときに、意外な感じをうけたのです。

沖田×華さんは、私の妹の小学生時代からの親友で、うちにも何度か遊びに来たことがあるのですが、(ちなみにうちの実家も「ボロ家」として「蜃気楼家族」に登場してます(笑))

漫画家として成功する以前の破天荒な人生も多少知っていたので、私の偏った先入観かもしれませんが、お墓を大切にするというイメージがフィットしないように感じていました。

ご先祖と約束をしていたからだろうと納得していましたが、「透明なゆりかご」を見たときに、その理由の一端がわかった気がしたのです。

透明ないのちを見てきた人だから、見えない先祖も大事にする

原作もベストセラーなので、読んでる方も少なくないと思いますが、この「透明なゆりかご」の物語は、看護師見習いの作者が産婦人科医院でアルバイトをしているときの実体験を元に書かれたものです。

産婦人科というと、妊婦さんが訪れ、待望の赤ちゃんが生まれる場所だと私たちは思っていますが、そこでは望まれない命が、中絶というカタチで消えていく場所でもありました。

主人公(作者)の仕事のひとつ。それは胎児を処理し、火葬されるために業者に手渡すというもの。

NHKより引用 (↑↑中絶された胎児をエタノール入りの瓶に入れる。「ほら、一人じゃないよ。仲間がきたよ」)

家族に望まれて生まれるいのちが「輝くいのち」なら、誰にも望まれず、絶たれてしまういのちは「透明ないのち」。
その消えゆくいのちに、童謡を歌ってあげたり、陽にあててあげたりと、いのちを大切に扱っている姿が描かれていました。

この場面を読んだとき、私は名前のわからないお骨をまとめているときの自分と重なってみえたのです。
私も時間が経過したお骨を扱うときがあるのですが、見ず知ずの古いお骨と対話しているときが少なからずあるんですね。

いわばその仕事は私にとっての「透明な骨つぼ」であり、お墓を建て、守っていくというのは、「輝くいのち」とは対照的な「透明ないのち」を守っていくことと同じ意味、同じ物語が存在しているのだと思うのです。

きっと意味がある

7/20放映分の「透明なゆりかご」ラストの方で、主人公がたしかこんなことを言っていました。

「私がこの仕事をしているのは、きっと何か意味があるんだ」

小さないのちに向き合い、消えゆくいのちにも意味を見いだそうとする姿。
そこがお墓を建てることにつながっているのかもしれないなぁ、と勝手に解釈して、さらに自分自身の仕事にまで重ねてしまいましたが、きっと彼女のご先祖さまもいまの活躍に目を細めていらっしゃったでしょうね。

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